うゆです🐰
私はミネラルウォーターの飲み比べが趣味で、特に中硬水以上のものを好んでいます。硬水の代表的なものとしてはエヴィアンやヴォルヴィックなどいくつかありますが、日本で比較的簡単に購入できる水の中で、特に高い硬度を誇るものとして必ず名前が挙がるのはやはりコントレックスでしょう。
コントレックスとはフランス原産のミネラルウォーターで、1468mg/Lという圧倒的な硬度から、鉱物由来の独特の苦味がある一方、デトックスや便秘改善といった様々な美容効果が期待できるという特長を持っています。
私の高校時代のクラスメイトに、そのコントレックスを常飲している女の子がいました。まつ毛が長く、かたちのいい唇をした女の子でした。そんな彼女は学校にしろプライヴェートにしろ、大抵コントレックスのペットボトルをカバンに忍ばせているようだったし、飲食店でさえもそれを飲んでいる姿を何度か目にしたことがありました。「どうしていつもコントレックスを飲んでいるの?」いつだか気になって尋ねた私に彼女はこともなげに答えました。「理由なんてないわ。ただ好きなのよ」
ちょうど夏が終わるころだったと思います、彼女がなんの前触れもなくぱったりと学校に来なくなったことがありました。連絡もつきませんでした。彼女はもともと病気なんかをするタイプではなかったから、クラスメイトたちの間では、夜逃げしただとか捕まっただとか、その理由についてなんの根拠もない憶測が飛び交ったのを覚えています。ただ、日ごと不在の机に溜まっていくプリントの束だけが、彼女の淡い帰還の予感を控えめに主張していました。
彼女が再び学校に姿を見せたのはそれから一ヶ月くらいしたころのことです。来なくなったときと全く同じようになんの前触れもなく教室に現れた彼女には、これといって何の変化もないように見えました。髪型も、声も、体型も、目を見張るくらいに何ひとつ変わっていませんでした。
「なんでもないわ。ただ休んでみたかっただけなの」
心配するクラスメイトへあっけらかんと答える声が、離れた席で寝たフリをする私の鼓膜にも届いて、なぜかひどく悲しげに振動しました。
しかし私はあることに気がつきました。彼女はもうコントレックスを飲まなくなっていたのです。あれ以来彼女が学校を休むことはなかったし、実際彼女も以前と変わらずそれなりに元気にやっているようでした。しかし、その僅かな変化はブラックホールのように私をひきつけて離さず、 彼女はそれを起点として少しづつ別の人間に置き換わっていってしまうのだという奇妙な予感が、確信に近い形をとって徐々に私の心の底へ迫ってくるのでした。コントレックスの代わりに500mlの退屈と失望とを常にその手に携えた彼女へ、もはや私がかける言葉などひとつもありませんでした。
結局、高校を卒業するまで彼女へその理由を訊くことはありませんでした。おそらく、訊いたところで彼女は「好きじゃなくなったの」とそっけなく答えるのでしょうし、 その言葉を聞いてしまうことで、私の中からも決定的な何かが失われてしまう気がしたのです。
彼女とは卒業以来一度も会っていません。風の噂で、彼女は卒業してまもなくバイト先で出会った男と結婚し、子供を産んですぐに離婚したと聞きました。私は今でも、彼女の失われてしまった何かに対して喪に服すような気持ちで、粛々とコントレックスを飲み続けています。そして液体をグラスへなみなみと注ぐ度に、彼女の素っ気ない口調と諦めきった表情とをつい思い出してしまうのです。
皆さんのおすすめミネラルウォーターや、ご当地ミネラルウォーターの情報など、ぜひご帰宅して教えてくださいね。
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