うゆであります。
10年振りに訪れた祖父母の家の近くの神社で出会ったケモ耳ロリ神様「まこと」とのひと夏の思い出を書きます。嘘です。
まことが家に来た。
大学四年生の、春である。
その日、私は安部公房に関するつまらない講義を三限に聴いて、帰りしなに彼女の家へ歩いた。
頭の少し高いところを季節外れの雪のように舞う羽虫の群れが柔らかい光に透けて綺麗だった。
斜陽の影になって入り組んだ路地は秘密めいてひっそりと押し黙り、スニーカーの底の擦れるギュッギュッという音だけが規則的なリズムを刻んでいた、どこかで懐かしい石鹸のような香りがした。
鳥が二羽、家々の屋根に縁取られた薄青色の空を滑空する。黒く絡み合う電線上に交点をとり、よどみない直線を描いて消えてゆく尾羽根の筆跡。
「カレン・カーペンターはどんな死に方をしたんだっけ」
「たしか摂食障害だった気がするね」
ひどい理由でその短い生涯を終えた女性歌手の歌声はドライヤーの音にほとんどかき消された。まことの濡れた髪が窓越しに差し込む西日を反射して鈍色に光っていた。
窓を少しだけ開けて、西日の巨大な口に呑み込まれゆく都市をぼんやりと眺める。スマートフォンのひどいオーディオからでもなお素晴らしいカレンの歌声は大気に甘く溶けて、二人の部屋から世界へ、コーヒーに混ざるミルクよりもずっと穏やかに、ゆっくりと流れ出していった。
しばらくして二人家を出た。
会社員の帰宅時間帯にちょうど被るくらいの時間ではあったが、それに合わせて比較的乗り換えの簡単な直通列車の運行するタイミングでもあった。
私の家はかなり遠くて、少なく見積ってもそこから電車で1時間以上はかかる。首都近郊のつまらないベッドタウン。県の南北を繋ぐ大きな国道は、夜に見渡すと赤いテールライトと白いヘッドライトが見渡す果てまで続いて、中央分離帯を挟んで紅白二色の隣あった大河のように見える。それなりに便利で、それなりに豊かだが、匂いとか、色とか、とにかくそんなようなものは決定的に欠けている街だ。
近くのスーパーで食材を買い込んだ。まことに料理をお願いすることにしたのだ。彼女は料理人として働いた経歴をもっているから。私がチャーハンを食べたいというとまことは韓国式のを作ってくれると言った。香辛料も卵も使わない。よく乗った豚バラの脂と、大量のキムチに含まれる野菜の旨味とで米を包みこんで、一息に炒めあげるのだ。考えるだけでヨダレが出る。実際、私のとめどなく分泌されたヨダレは地を穿ち、堆積し、ひとつの地形を残した。それが今のカスピ海である。
夕飯時のピークを過ぎたスーパーでは肉が安かった。しかしまことは40%引きの肩ロースと定価のバラ肉を比較し、少し迷った末に定価の方を選んだ。脂が足りないと美味くないのだという。私は彼女のこだわりに舌を巻いた。期待が高まる。私の高まった期待はスーパーの屋根を突き破り、雲を抜け、大気圏を見下ろし、太陽の熱に燃えた。現在はそれを宇宙エレベーターとして利用する計画がNASAで持ち上がっているらしい。だから私も期待を高く保っておくのに必死だ。
我がマンションのエレベーターには乗り換えが必要なのだと言うとまことは簡単に信じた。可愛いやつである。私たちはエレベーターを途中で降りて階段で2階分だけ歩き、それからまたさっきと同じ匂いのするエレベーターに乗り直した。
「直通運転は朝と夕のそれぞれ1時間だけなんだ。」
無論、嘘である。
まことは重たいトートバッグをようやく下ろして深く息をついた。中にはパソコンやメイク道具が一式入っていたのだという。ソファに深く腰かけるまこと。Newtypeの友人が私の家を訪れるのははじめてだから変な感じがした。デペイズマン、みたいな感じ。知らんけど。
と、そのとき私のお腹が鳴って、つられるようにまことのお腹も鳴った。ふたり顔を見合わせる。
「さあさあ、腕をふるいたまえよ。あらゆる人類史はキッチンの歴史さ、ボリシェヴィキも第三共和政も、そこにいい料理人がいたから歴史にページを刻んだのだ。」
「まあ待ちたまえうゆよ。幸福は最大のスパイスとは今や陳腐だがよく言ったものだなぁ?君はマシュマロ・テストでも最初にマシュマロを食べてしまうグループに違いないね。そこのアペタイザーでもつまんで待つこったい。」
ここでCM。
彼こそが次期アメリカ大統領候補・轟飴細工村 ジョングク(とどろきあめざいくむら じょんぐく)だ!
嘘です。つづきをどうぞ。
“アペタイザー”は、海ぶどうであった。
途中の乗り換え駅で1パック1300円もだして購入したものだ。私は物産展というものに目がない。アンテナショップというのも同様だ。つまり欲に目が眩んでしまったのだ、しかし間違いなくその甲斐はあった。水で戻すタイプの市販の海ぶどうと違って、それは朝どれの冷凍を行っていない極めて新鮮なやつで、茎のシャキシャキとした食感と、鼻に抜ける芳醇な海の香りを存分に楽しむことができた。これは風味がしっかりしているので味の濃い麺つゆより爽やかなシークヮーサーの方が合う。関係ないが、ヮという字がシークヮーサーをおいてほかに使われているのを見たことがない。有識者はご一報を。
まこともつまみにきた。海ぶどうを食べるのは初めてだと言う。いくつか口に運んで、妙な顔をしてから、またフライパンの様子を見に戻った。いつのまにやらキッチンからは豚肉とキムチのえもいわれぬ香り、記憶に基づいたというよりむしろ本能的な快感をゾワゾワとくすぐるあの抗いがたい香りが漂ってきていた。
カウンターにはさきほど買いこんだキムチの容器が空になって2つ。決して少ない量ではない。恐ろしさと期待が混じりあって鼻の頭に汗がにじんだ。
豚肉とキムチとで悪魔的に煮えたつフライパンへ半解凍の白米を約2合投入、そのまま勢いよく炒めるまこと。チャーハンは時間が勝負というが、それは間違いなく韓国式のも同じらしい。
油をまとって光る米がキッチンを舞う。フライパンは威勢よくシュンシュンと唸る。それを前にして私はもはや餓死寸前だ。
「1秒でもはやくそれを食わせるんだ!」
思わず叫ぶのとまことが火を消すのが同時だった。
テーブルにタオルを敷いて、その上にフライパンを乗せた。あいにく我が家に格好の鍋敷きになるような気の利いた少年誌の類はない。
グラスを出してチャミスルを注ぐ。瓶のキャップを回すパチパチっという小気味よい音は天使のラッパだ。
グラスを合わせる、酒を浴びる、米を掻き込む、再び、酒を浴びる。
“저 지기네!!“
遠くで電車の走る音がした。まとめていた髪も解いて、実にいい気持ちだった。
もともと私の家のホームプロジェクターでホラー映画を見ようという計画で家に誘ったのだが、2人ともなかなかに酔ってそれどころではなかったので、ベッドに並んで大人しく寝ることにした。そこで話したことはまた別のお話。
まことのおかげでいい夜でした。
新人のまことをよろしくお願いします。
ここには出てきてないですが、かのんもよろしくお願いします。
2人ともめちゃ可愛いメイドさんたちです。
ういなさん生誕です。
あや?ういないとです。あやが何かするのかもしれません。
ういなさんが描いたみたいです。自作発言、トレス、AI学習禁止。アイコン使用は相談してください。
みおさん生誕
百鬼夜行?いいえ、kawaii パレードです。