超絶可愛い女装メイドの居るお店
男の娘カフェ&バー NEWTYPE
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ミサトさんとエヴァ(シンジ)

こんにちは。シンジです。

 

先日、ミサトさんとエヴァに乗って熱海まで行ってきました。実は零号機に綾波なしで乗るのははじめてだったのですが、僕のシンクロ率が十分に高かったのか存外すんなりと搭乗することができました。

 

エヴァに乗るなりミサトさんは搭乗前に買い込んだ缶ビールを浴びるように飲みだし、僕はといえば操縦桿を握ったままミサトさんの酒臭い息やらろくでもない愚痴やらに耐えなければなりませんでした。

 

 

NERV本部のある第三新東京市から熱海へは車なら40分ほどかかるのですが、エヴァを使えばたった15分足らずで行くことができました。エヴァの人智をこえたテクノロジーに感嘆の念を覚えながら、僕も僕自身の操縦能力が初めての使徒襲来のときに比べて飛躍的に上達したことを我ながら実感しました。

 

 

現在熱海はシーズン・オフですから、夏に比べれば当然閑散とはしているものの、商店街を歩いて見れば観光地の矜恃といいますか、十分な賑わいを楽しむことはそれなりにできるわけです。

商店街と言えば食べ歩きです。僕らはNERV職員の間で密かに話題になっていた「熱海スクエアシュークリーム」(450)をはじめ、できたてジューシーな磯揚げ(400)、温泉まんじゅう(300)など、観光地ならではの絶品グルメに舌つづみを打ちました。

 

しかし、30分ほど巡ったところで、ミサトさんが急にお腹を押えて動かなくなってしまいました。どうやら油っこいものの食べすぎで胃を悪くしてしまったようです。僕はコンビニでミサトさんのために太田胃散(240PayPay払いをしたところスクラッチチャンスで3等が当たりました。)を購入しすぐに飲ませました。しばらくすると多少元気になったようなので、僕は彼女を半ば引きずるようにして海鮮丼屋の行列の最後尾に並びました。僕はどうしても熱海で海鮮丼が食べたかったのです。ミサトさんには多少の無理くらいしてもらいましょう、なにせ僕はこの前のイスラフェル戦で使徒を4体も撃退したことになったのですから。

 

 

30分ほど並んでようやく席に着くと、僕は「こぼれしらす丼」(2100)を、最悪は脱したもののその顔に依然グロッキーな影を残すミサトさんは「特性あら汁」(800)を注文しました。あら汁に800円も出すなんて信じられませんが、ミサトさんは観光地なんて大抵そんな物価なのだと、諦めたように小さくニヤリと笑ってみせました。

 

 

こぼれしらす丼はまあまあな味でした。しらすはどうやら今の時期旬ではないそうで、聞くとロシア産の冷凍のものを使用しているということでした。期待していたほどではないクオリティに僕は少なからぬ落胆を隠せませんでした。キッチンを見やると、店員が億劫そうに酢飯を丼へ盛り付けているのが見えました。僕らは食べ終わるやいなやどちらともなく席を立ち、気もそぞろな「ごちそうさま」をぼそぼそと唱えました。酢飯の味だけが甘酸っぱく口の中に残っていました。

 

 


店を出ると、ビーチから観光地まで急峻な斜面をせり上がってくるように吹きつける冷たい海風が僕らの身体を芯から震わし、海鳴りの不気味な音と混ざって冬の曇り空をいっそう重苦しく見せていました。僕らはおしなべて無言のまま、冬物のコートを必死で身体に巻き付けるようにして、なんとかこの慈悲のない自然の冷酷な戯れをやり過ごそうとしていました。

 

 

そのとき、横でミサトさんが誰にともなく呟くのが聞こえました。

「今日しか休みがとれなかったのよ。」

どこか拗ねたような声でした。僕はハッとして、一瞬ミサトさんを見、その油っこい視線から逃れるようにしてすぐに目を逸らしました。やりきれない思いでした。理由は分かりませんが、僕の脳裏にトウジやケンスケ、アスカ、そして綾波の顔がぷつぷつと浮かんで、やがてあとに赤茶けた不思議な色の感傷だけを残して消えていきました。 僕などお構いなしにすたすたと3歩先をゆくミサトさんの首に巻かれた鮮やかな赤いマフラーが、曇り空の敷石道の上で妙に空々しく閃いているのが見えました。きつく奥歯を噛み締めると、鼻の奥に涙のツンとした味がかすかに広がるのが分かりました。結局僕はミサトさんの言葉に何ひとつ返すことができませんでした。

 

 

30分ほど歩いて僕らは海に出ました。僕はその圧倒的な大きさに打ちのめされて、寒さも忘れてしばらく愕然としていました。

LCLの真っ赤な海は血の匂いがしました。セカンドインパクトが起こる前はビーチに生き物の死骸の腐ったような匂いやら潮のしょっぱい匂いやらしたものよとミサトさんは呪文でも唱えるように無感情に呟きました。

見渡す果ての虚空から僕らを目掛けてまっすぐにやってくる風がLCLの真っ赤な海面に無限の漣を起こしています。そのとき、僕はふと思い立って、海に入ってみることにしました。

 

靴と靴下を脱いで手に持つと、一歩、また一歩と真っ赤な海の中へゆっくり踏み込んでゆきました。水の冷たさが刺すように身体中を這い回りました。深く呼吸をして心を落ち着けると、僕は足裏に当たる砂の感触を確かめるように、一度二度足の指を曲げ伸ばししました。14歳の僕の、やや筋張った細い素足は、冷たい海水に洗われて静かに脈打ち始めています。寄せては返す波に浮かぶ厚ぼったい泡がぱちぱちと弾け、その飛沫が青白い脛に降り掛かって気持ちが良かったのを覚えています。

振り返ると、この辺りにはかつて油田があったこともあるのよとミサトさんは相変わらず虚空に向かってぶつぶつ独り言を呟いています。どうやら彼女は曇天の海が往々にして発散する、あの特有の痛切なノスタルジアの念にあてられて少しおかしくなってしまっているようでした。


僕は再び前を向いて、水平線の消失する先の限りない虚無、僕らの休日を台無しにしようと目論む意地悪な魔物のいる場所へ、ひたと視線を定めました。叫びたくなったけど、叫びませんでした。叫んでしまったら僕の中で何かが決定的に失われてしまうような気がしたのです。それは確かに僕が失うべきもの、発散すべきものだったのだと思います。しかし、あのときの僕は自分の心を意固地に満たしていた悲しいとも悔しいともつかぬ、14歳という若さが生み出した微妙な気持ちを忘れてしまいたくはなかったのだと思います。僕は口を大きく開けて、お腹にぐっと力を入れた体勢のまま、しばらく迷って、また身体の力を抜くと、海の果てに背を向けて再び来た道を引き返しはじめました。そして海からあがって靴下と靴を履き直し、まだ放心状態で何かを呟いているミサトさんの手を引いて、僕はエヴァを停めてある駐車場へゆっくり向かいました。僕がもう海を振り返ることはありませんでした。

 

僕らはエヴァに乗って帰りました。「エヴァに乗らないなら帰れ」と言われた僕が「エヴァに乗って帰る」というのはなんだか妙な気分です。ミサトさんはエヴァに乗るなりすやすやと穏やかな寝息をたて、NERVに着くころにはだいぶ顔色も落ち着いているようでした。

 

僕は綾波やアスカにお土産のご当地ストラップ(各¥600)を一つづつ渡し、伊吹さん、日向さん、青葉さんにも日頃の感謝として『熱海プリン』(¥450)を配りました。伊吹さんは「パターン青!美味です!」なんてひどく喜んでくれました。

 

結局せっかくの僕らの休日はろくでもない気分のまま終わりを迎えてしまったし、あれ以来ミサトさんとの間にもなんとなくぎこちない雰囲気が体育館の天井に挟まったバレーボールみたいにいつまでも残っています。

でも、きっと大人になるということはそういうことなのでしょう。小さな不快と、言葉にできない違和感をずっと抱え込んだまま、自分ではどうにもならない世界の大きさに絶望し、ふとついたため息の大きさに自分でびっくりしてみたりする。僕は自分が前よりずっとタフになった、しかしそれ以上に弱くなってしまったと感じます。学校でも訓練でも、何か新しいことや困難なことに立ち向かおうとするとき、あの日の海で僕の足取りを止め、叫びを押し殺した、あの寒々しい灰と赤の風景がきまってよぎるのです。自分の心の底に渦をまく無気力の潮がしっかりと据え付けられてしまったように、僕は何をしてもそれが上手くいかなかったように感じ、やり場のない後悔に絡め取られている自分自身の冷たい骸を発見するのです。

ただ一方で、僕は僕の中に、その底知れない引力に対抗して、頑として前進のための運動を続けようとする確固たる意志もまた発見するのです。それはあのとき無限への歩みを止めたことが、あるいは同時に実質的な世界に向けての第一歩を踏み出していたことをも意味するのと同じように。相反する方向づけの中に、互いの力を根拠として見出されたふたつの意志の所在は、絶えず連動し、混ざりあって、かけがえのない僕という存在の輪郭を形づくっている。物事は常に両義的な性格を有していて、その微妙な差異や力加減によってその意味づけを大きく変化させるのです。つまり、大人になるということは、絶望を知り、それとの適切な距離を測る連綿とした営みというばかりではなく、自分の秘められた力に気づき、それを適切に行使することによって徐々に覚醒する身の回りの物事(例えば言葉や感覚といったようなもの)と出会う喜びを知ることでもあるのです

 

 

おや、これを書いている間にまた使徒が襲来したようです。どれだけやれるかは分かりませんが、とりあえずやれるだけやってみることとしましょう。

 

それではみなさん、ごきげんよう。

 

 

シンジ