うゆです。
今年のアルティメット箱根駅伝で「悪滅の641区」を約803時間半で走り、アルティメット区間賞に輝きました。今日はあんまり内容ないです。
目の焦点が合わず、意識は常に霞がかかったようにぼやけている。夢が現実に侵入してきてしまったようだった。自分がこれから街へ出て何をしに行くのかとか、誰と会わなければならないかとか、そういったことは一切分からない、気にも留めないまま、電池の切れかけた機械人形みたいにふらふらと駅へ向かっていた。
暑かった。空は雲に覆われ、日差しは昨日よりいくぶん和らいではいたが、それでも激甚な太陽光線は雲を透かしてアスファルトを焼いていた。立ちのぼった熱はくぐもった地平に乱反射しその度にうだるような熱波を私目がけて悪魔兵よろしく一目散に突き刺しにきた。歩を進めるたびに汗はこんこんと毛穴の全てから吹き出してくるのだが、皮膚の表面温度があまりに高まりきっているために、それらは吹き出したそばから蒸発し塩のこびりついた不快な足跡だけを残すのだった。
フレンチブルドッグのような顔をした中年の男が歩道橋をわたっている。てっぺんの禿げかけた毛髪をぴったり左右均一に分けた、やはりフレンチブルドッグの耳のような形をした髪型は風に合わせてパタパタと靡く。やがて男は尻ポケットから扇子を取りだしてしきりに扇ぎだした。鼻の下にボルダリングの壁のように浮かんだ汗の粒を舐めとりながら一生懸命に手を動かす姿はまさにフレンチブルドッグだ。しかし、獰猛に唸り声をあげる車の次々に行き交う国道の上を悠々と歩き去る彼はヘブライ人を率いてエジプトを脱出するモーセのようにも見えた。「疾走する自動車はサモトラケのニケよりも美しい!」あるいはそうなのかもしれない。ただ、そのどちらもフレンチブルドッグのような顔をした男に比べればちっとも美しくなんてない。
黒いフリルのついた日傘を差しながら顰め面をして忙しそうに小股で歩く中年女。ハンドバッグから提がったブランドロゴのキーホルダーはところどころほつれてもう少しのきっかけさえあればすぐに切れて落ちてしまうだろう。たった数本の糸で辛うじてぶらさがっているだけのキーホルダー。それは無理やりブランドロゴにしがみつこうと足掻く女自身の姿の反映のようでもあった。実は私はこの女を近隣のスーパーマーケットで何度か見かけたことがある。彼女は値引きシールを貼る店員のあとを周到に付け狙い、飢えた栗鼠のような驚くべき俊敏さを発揮して安くなった豚コマ肉を見事に入手していた。常に何かにしがみつきながら生きている。ちっぽけな見栄とか、些末な利益とか、そんなようなもののしっぽを追いかけて生きている女と、あるいは私も全く同じなのかもしれない。
男も、女も、大人も、子どもも、皆同じように例年よりずっと早く訪れた酷暑を邪険に振りほどきながら歩いていた。私はそのことが無性に嬉しかった。ほかの誰もが私と同じように半袖を着て、汗を流しているのが嬉しくてたまらなかった。酷暑の前に私たちはみな平等だ。みな一様に不快で、一様に無力だ。この一様であることの匿名性に埋もれてしまうことは、私にこのうえない解放の喜びを感じさせた。酷暑によって私ははじめて人間になる!私はこのようにして自分の実存に対して納得のいく感触を得、永遠のアウトサイダーであることの不安や痛苦から逃れ去ることができるのだ。
これはつまり『新世紀エヴァンゲリオン』で秘密結社ゼーレの目指していた「人類補完計画」の内容と同じである。人類(リリン)から個と個を隔てる心の壁(ATフィールド)を取り去り、ひとつの生命として再誕させること。争いも憎しみもなく、誰もが母の御胸の中、合一の幸福な全能感に身を浸し続ける世界、私はこれを素晴らしいことだと思っている。酷暑という一点で人々の苦しみや欲求が大まかに一致し、同じような考えを抱き、同じような行動に駆られる状況は、私の魅了された人類補完計画が擬似的に再現された状態といっても差支えはないだろう。
早稲田から馬場下町の坂を登ってしばらく歩き、明治通りの交差点まで出た。
親友と最後に会った2年前の日の夜、私はここにある花屋でブルースターのつまらない花束を包んで彼女に渡したのだった。花は枯れるのだ。花瓶から萎びた花を摘んでゴミに捨てるとき、腐った花の発する濃密な精液のような匂いとともに、彼女は私のことを少しでも思い出しただろうか?終わる呪い、いつか解ける呪い。いつまでも愚かしく取り憑かれているのは呪いをかけた私の方だ。
交差点は混んでいた。サラリーマンとか、子供を自転車の後ろに乗せた母親とか、中国人の日本語学生とか、とにかく様々な人が「赤色の信号は止まる」というルールを遵守し、吹き出す汗を何とかしようとハンディファンやハンカチを手にしている。私もそれに倣う。自分が周りの人と同じことをしている、それだけで私は自分のことを誇らしく思うことができた。私が当然のことと思ってやっていたことが実は他人から見ればおかしなことだったり、みんなの真似をしようと思ってもなかなか上手くできなかったり、私の人生はそんな出来事の連続だったから。ただ信号を待って、暑がってさえいればいいというのはなかなか単純なミッションだった。

誰かが、何かを撮っていた。一体何?
今日は心の調子がすごく悪いので、途中ですがここまでにします。ありがとうございました。
今日のアルバム
ゆらゆら帝国『Sweet Spot』
一回紹介したやつですが、今日はこれしか聴いていないのでこれです。
sweet spotを綺麗に外す不快感。
せりにゃん生誕。
せりにゃんは布団の代わりに敷きカーテンを敷き、掛けカーテンを掛けて寝る。
ちさと新衣装お披露目。
ちさとの左目は義眼で、中にイチゴ味の金平糖が入っている。
七夕イヴェント。
汗だくのフワちゃんが弱冷房車に煮え切らない思いをしますように。
まつなつり。
嘘雑学…射的用のコルク銃の構造は三菱が特許をとっている。